大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和30年(た)1号 判決 1958年7月15日

被告人 坂口為次郎

主文

被告人を懲役五年に処する。

訴訟費用中、国選弁護人(原審並に当審とも)及び原審証人前本繁、同竹内正恒、同佐伯茂、同中尾敏夫、同伊藤左千子に支給した分は全部被告人の負担とする。

本件公訴事実中「被告人木村正、松村某と共謀の上、昭和二四年五月三日午前一〇時頃、大阪市住吉区帝塚山東四丁目三四番地川端良一方において同人の妻美盛尾に対し暴行を加えた上右良一所有の現金二、〇〇〇円及び衣類六点を強取した(予備的訴因、被告人が木村正、松村某と共謀の上、同年同月同日同時刻頃右川端良一方で前記金品を窃取した際、右美盛尾に発見され逮捕を免れるため脅迫暴行を加えた。)」との点は無罪。

理由

被告人は

第一(一)  三木某及び松村某と共謀の上、昭和二四年三月二七日午後〇時一〇分頃、大阪市南区御堂筋を自転車に乗つて通行中の前本繁(当時二四年)を呼止め、同人を同市同区三津寺町一番地先の第地に連行し、足払いでその場に転倒させ、起上つて逃げようとする同人の顔面を平手で数回殴打し、更に足払いでその場に転倒させる等の暴行を加えた上、同人より現金一、五〇五円在中の財布一個を強取し、

(二)  木村正及び松村某と共謀の上、

(1)  同年四月一日午後九時頃同市東成区大成通二丁目二一番地射矢重一方で、松村は留守居の伊藤左千子(当時二〇年)に対し所携の匕首を突付け「金を出せ」と言い、又木村は同家炊事場にあつた菜切庖丁を示してその傍らに立つて同女を脅迫し、右重一所有の現金一〇、〇〇〇円及び衣類二点(価格三〇、〇〇〇円位相当)を強取し、

(2)  同年同月一四日午前〇時頃同市同区大今里南之町一丁目七一四番地藤沢幾治方で、覆面した上、松村において右幾治(当時四一年)その妻藤沢三起子(当時三九年)及び女中高森政子(当時二四年)等に対し所携の匕首を突付けたり等して「金を出せ」「声を出すと殺すぞ」等と言つて脅迫し、右幾治より現金六〇、〇〇〇円を強取し、

第二  単独又は共謀の上、別紙窃盗犯罪一覧表記載のとおり昭和二三年九月二七日頃から昭和二四年夏頃までの間に前後三二回に亘つて他人の財物を窃取し

たものであつて、右各事実は、いずれも原判決において既に確定せられた事実である。

(前科、法律の適用)(略)

本件公訴事実中、主文第三項掲記の事実につき、原審第一回、第五回公判調書中被告人の各供述記載と被告人の検察官(第二回)及び司法警察員(第六回)に対する各供述調書によると、被告人において右公訴事実に符合する自白をしているけれども、当審証人西田弘尋問調書及び当裁判所の昭和三二年五月六日附調書中、被告人(再審請求人)の供述記載並びに西田弘、西田清に対する準強盗等被告事件の確定判決謄本を綜合して認定できる(一)、西田弘、西田清が昭和二九年九月二八日大阪地方裁判所で同人等に対する右準強盗等被告事件において、本件公訴事実(予備的訴因)と略同一の事実(共犯者が右両名及び魚川某の三名であり、被害現金額が一、五〇〇円位となつている点のみが異つている)につき有罪判決を言渡され、右判決は既に確定したこと、(二)、右準強盗は、右共犯者三名の所為であつて、同人等はいずれも被告人とは別人であること等の事実と対比して前記被告人の自白は真実に反するものと認められ、他に右犯罪事実につき被告人が共謀又は実行行為に関与したとの確証は見当らないので、前記公訴事実については犯罪の証明がないものとして刑事訴訟法第三三六条を適用して無罪の言渡をするのが相当である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 石丸弘衛 大西一夫 藤原弘道)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例